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TMSの詳細

TMS療法

目次

TMSの紹介

うつ病に対するTMS治療について、うつ症状の説明、TMSの原理や効果のメカニズム、
当院の治療プラン、当院の治療実績、等について、12分程度で紹介する動画を用意しております。TMS治療に興味がある方はご覧ください。

 

 

TMSとは

TMS(Transcranial Magnetic Stimulation)は、経頭蓋磁気刺激法とも呼ばれ、磁場の変化により非侵襲的に神経細胞を刺激する方法です。

 

MRI等と同じく人体に無害な磁気を用いて深部脳に直接刺激を与えることで、うつ病患者様の脳を活性化しバランスが乱れた脳機能を整えます。

 

磁気刺激を反復することから、repetitive(反復)TMS:rTMSとも呼ばれます。最近では、反復方法にシータリズムを取り入れたシータバースト法も使われていますが、これもrTMSの一つです。

 

TMSの仕組み

磁場をパルス状に連続発生させるコイル装置を患者様の頭部に近づけます。磁場は、頭蓋骨の内部まで到達し、磁場の働きで生じた渦電流が脳神経細胞に働きかけます。

 

8の字コイルを用いて2つの円形コイルに逆向きの電流を流すことで、接線直下の電流は2倍となり、接線部分以外は2つのコイルが作り出す磁場が互いに相殺し、脳の局所刺激が可能です。刺激部位での空間分解能は約1cm,刺激の深さは2cm程度と考えられています。

 

TMSで刺激する脳の部位は、背外側前頭前野(dorsolateral profrontal cortex: DLPFC)という領域です。

 

脳の血流や酸素代謝の解析から、うつ病患者様の多くでは、脳の左前方のDLPFCの活動性が低下していることが知られています。反対に、右側のDLPFCの活性は増加しています。

 

TMSでは、(1)うつ病患者様の脳で抑制されている左側のDLPFCを活性化する、あるいは、(2)異常に亢進している右側のDLPFCを抑制することで、脳のネットワークのバランスを整えて、脳を正常な状態に戻します。

 

DLPFCは、ワーキングメモリー・ネットワークの活性化を通じて、目標の設定や意思決定、遂行機能などに関与します。行動の結果やこれまでの体験にもとづいて、現在および将来の状況を推論および判断し、適切な行動につながります。

 

うつ病患者様の脳では、左側DLPFCの機能低下によって、ワーキングメモリー・ネットワークの活性が低下し、意欲や判断力が低下します。

 

一方で、休息時や、心がさまよい雑念が次々に浮かんでくるような時に活性化するデフォルトモード・ネットワークが過剰に活性化する結果、過度に内省的になり、否定的なぐるぐる思考が起こりやすくなると考えられています。

 

脳の前頭前野の中でも、左側の領域は、ポジティブな感情に関与し、右側は、ネガティブな感情に関与すると考えられています(Grimm et al., Biol Psychiatry 2007)。

 

TMS治療によって、左側のDLPFCを活性化することで、ポジティブな情報をポジティブに受け取る前向きな思考や意欲を取り戻し、右側のDLPFCを抑制することで、ネガティブな感情による落ち込みや不安を軽減する効果が期待されます。

 

TMSの治療効果

TMS治療がうつ病に有効であることは、1993年頃から報告されましたが、大規模な多施設共同研究により、2008年に薬物による治療抵抗性のうつ病への新しい治療法として米国で承認されました(O’Reardon et al., Biol Psychiatry 2007)。

 

その研究において、治療抵抗性の患者様にTMS単独で治療を行った結果、うつ症状が改善する割合は、TMSの回数を増やすことで治療効果が高まることが示されています。

症状が改善する場合、5~6回のTMS治療から効果を感じ始める場合が多いようです。

最近の報告によると、TMS単独で5〜6割の患者様で治療反応を認め、3〜4割の患者様が寛解にいたり、うつ症状を認めなくなったことが示されています(Baeken et al., Curr Opin Psychiatry 2019)。


抗うつ薬での治療が長期化するほど新しい薬への反応性が下がり、難治性となりますが、そのような患者様に対してもTMSは有効です。


治療抵抗性のうつ病の方では、10回、20回、30回と治療回数が増えるに従って、症状が改善する方の割合が増えていくことが示されています(O’Reardon et al., Biol Psychiatry 2007)。

 

実際、本院でもTMSによりうつ症状が緩和した患者様を多数経験しています。
症例については下記をご参照下さい。

当院では、うつ症状の初発の患者様で、すぐにTMS治療を選択される方も多数いらっしゃいます。

早期に治療を開始できるほど、症状の速やかな改善効果が期待できます。

うつ症状を感じたら、できるだけ早めに治療を開始されることをお勧めいたします。

 

当院でのTMSによる治療効果

当院では、初診時と1コース程度終了時にうつ病自己評価尺度検査(CES-D)を用いて、うつ状態の評価を行っています。
治療10 回ごとに実施する心理検査は無料で行っております。

CES-D値はうつ状態のセルフチェックのページで確認することができます。CES-D値が高いほど抑うつ症状が強いことを意味しています。


令和2年から令和5年2月にかけて来院された患者様で、抑うつ症状を伴う方のうち(CES-D: 16 点以上)、1コース(10回)以上TMS治療を行い、その後CES-D検査を行って頂いた方(210名)の結果が次のグラフになります。

図1に示すように、治療によってCES-Dの平均値が低下して、うつ症状が改善したことが分かります。 図2でCES-D値の分布を見ると、治療前は、青い棒グラフは右側に偏っており、うつ症状が重い状態であったのが、治療後には、赤い棒グラフは左側に偏り、うつ症状が改善していることが分かります。 図3に示すように、半数近い方でCES-D値は10点以上改善しています。 図4に示すように、治療後に3割近い方で、うつ症状を認めない寛解状態となっています。うつ症状の改善は、9割近い方で認められました。

初診時にうつ症状を認め(CES-D 検査:30 点以上)、TMS治療を20回実施した方(20名)について、うつ症状の推移を示した結果が図5です。平均値でみると、10回でCES-Dが低下して抑うつ症状が改善し、20回の時点でも改善状態が維持されていることが分かります(図6)。

TMSと薬物療法の比較

TMS 薬物療法
メリット 副作用がほとんどない
薬物抵抗性のうつ病にも有効
数週間で効果を評価できる
相性の良い薬が見つかる可能性あり
確立された治療法である
デメリット 1回の治療費が比較的高価
1回では効果を実感しにくい
治療が長期間にわたる
薬物の副作用のリスクあり

TMSをお勧めする患者様

・薬の副作用にお困りの方
・薬物治療を繰り返していて、改善が乏しい方
・薬を最小限に抑えて短期間での回復を希望される方
・内服されている薬の量を減らしたい方

ぜひ一度、当院までご相談にお越し下さい。

 

TMS治療は、うつ症状でも、典型的なうつ病に加えて、双極性障害の方のうつ状態にも有効です(Gold et al., Brain and Behavior. 2019)。

 

強迫性障害の方へも有効性が報告されています(Lusicic et al., Neuropsychiatric Disease and Treatment 2018)。

 

また、不安障害やパニック障害の方への有効性も報告されています(Aparecida et al., Neuropsychiatric Disease and Treatment 2019)。

 

発達障害、特にADHDの方への治療効果も報告されています(Alyagon et al., NeuroImage: Clinical 2020)。

 

症状に応じてTMS治療の刺激パターンが異なっており、患者様に最適な治療方針をご案内いたします。

TMSの刺激パターン

当院では、TMSの中でも最も治療効果の高いシータバーストモードを採用しています。2008年に米国FDAで認可された従来の磁気刺激法は、37.5分と長時間を要します。この方法では、4秒間に40回のパルスを加え(10Hz)、26秒間の休みを挟んで刺激を繰り返し、合計3,000パルスを左側DLPFCに与えます(下図)。

2018年に、シータバーストモードを使うことで、3分9秒と短時間の刺激で、37.5分の磁気刺激法と同レベルの抗うつ効果が得られることが報告されました(Blumberger et al., Lancet 2018)。

 

シータバーストモードとは、50Hzで3回のパルスを加え、パルス間のインターバルを200ms(5Hz)とする方法です(下図)。

 

5Hzは、脳のシータ波の周波数であることから、脳の生理リズムを模倣した刺激パターンとなります。

 

シータバーストモード(TBS)には、間欠的シータバースト(intermittent TBS: iTBS)と連続的シータバースト(continuous TBS: cTBS)があります。

 

間欠的シータバースト(iTBS)では、パルス2秒、休息8秒を繰り返すことで、神経ネットワークの長期増強を誘導します(Huang et al., Neuron 2005)。

 

一方、連続的シータバースト(cTBS)では、神経ネットワークの長期抑制が誘導されます。


うつ病患者様の脳において、活性が低下した左側のDLPFCにiTBSのパルス刺激を加えることで活性化を誘導し、また、異常に亢進した右側のDLPFCにcTBSのパルス刺激を加えることで活性を抑制できます。

 

左側DLPFCの活性化、また、右側DLPFCの抑制いずれもうつ症状への改善効果が期待されます(Berlim et al., Psychological Medicine 2014、Berlim et al., Neuropsychopharmacology 2013)。


近年、左側のDLPFCを活性化することに加えて、右側のDLPFCを抑制することで、うつ症状の改善がより有意に認められることが報告されています(Li et al., Brain 2014)。当院でも、左側と右側の刺激を組み合わせることで、治療効果を最大限に引き出します。

 

近年、シータバースト刺激を従来の50Hzから20Hzに変更することで、より良好な抗うつ効果を認めることが海外の研究で報告されています(Stubbeman et al., Brain Stimulation 2018)。

 

当院でも20Hzの刺激方法を取り入れており、患者様の状態に応じて適切な刺激を提案させて頂きます。

 

当院のTMSの特徴

当院では、間欠的シータバースト(iTBS)と連続的シータバースト法(cTBS)を組み合わせて、短時間で効率的にうつ症状を改善します。

 

必要な意欲改善の程度に応じて、左側のiTBS刺激を 1,800、2,400パルスから選択し、不安感や不眠症状を伴う患者様には、右側のcTBS刺激を600または1,200パルスから選択して頂くことが可能です。

 

意欲や集中力の改善効果と、不安症状の抑制効果を考慮して、左右の刺激バランスが最適なプランを、プランB1、B2の中からご案内致します。

他にも6分40秒の短時間で、うつ症状の回復に必要十分な刺激を行うAプランもご用意しております。金銭的な負担が少なく、リーズナブルな価格で治療を受けていただくことが可能です。

プランの詳細は、下記の「治療プラン」をご参照下さい。


当院の
TMS治療機器について

当院ではREMED社が製造したTAMASというTMS治療機器を使用しております。
TAMASは、日本では検査用機器として厚生労働省から承認を受けており、米国では、うつ病に対するTMS治療機器としてFDAから承認を受けています。

FDA認証

FDAとは、Food and Drug Administrationの略で、アメリカ食品医薬品局のことです。食品、医薬品、医療機器など消費者と接触がある製品について、安全性の検査や違反品の取り締まりを行なっています。TAMASは、米国で販売されているTMS治療機器と同程度に安全かつ効果的(実質的に同等)であるという510k申請で認可を得ています。

TMSの機器による違いとして、矩形波の作成方法やコイルの特性が挙げられます。矩形波を作るために、まず変圧器によって、望むDC電圧が得られるAC(交流)電圧に変圧し、降圧されたAC電圧は整流器によってDC(直流)電圧に変換します。次にコンデンサに蓄えられた電荷は、インバーター回路を用いてパルス幅変調を行い、矩形波に変換されます。矩形波は、オン期間と周期により出力が調整されます。(Sorkhabi et al, IEEE Trans Biomed Eng.2020、Deng et al., Brain stimulation 2013)

FDA認証されたTMS機器のパルス幅(オン期間)は185から370 µsの間にあり、機器によって皮膚感覚が違います。TAMASのパルス幅は320 µsと長めであり、電場強度が下がり、痛みが軽度です。一方、TAMASによる磁束密度は最大で3テスラまで誘導可能であり、反応が出ずらい方に対してもしっかりと刺激することが可能です。安全性の観点では、負荷抵抗による発熱を抑えるために冷却装置が必要となり、機器によって空冷式や油冷式など違いがあります。TAMASは油冷式であり、効率的に発熱を抑えることができます。

コイルは、7cm径の8の字コイルが使われることが一般的で、約1cm径の領域に渦電流を引き起こし、その領域内の100万個程度の神経細胞に作用します。パルス出力により磁場強度が変化し、誘導電場の広がりや深度が変化しますが、8の字コイルを使用すれば、どの機器を使っても違いはほとんどありません。バタフライコイルや円形コイルなど形状の違うコイルを使用すると、誘導電場が変わるため、刺激部位が大きく異なります。


TMSの刺激位置の決定


TMSの治療にあたり、刺激部位の正確な特定が重要です。本院ではTMSへの応答性を用いて右手指の筋肉のモーターポイントを決定し、その5cm前方を左側のDLPFCとして刺激部位を定めています。


頭囲のサイズに基づいてDLPFCの位置を正確に決めることができる方法(BeamF3法)が報告されています(Beam et al., Brain stimulation 2009)。

 

この方法を用いることで、9割以上の方で、DLPFCと刺激部位の距離が1.4cm以下になります(Mir-Moghtadaei et al., Brain stimulation 2015)。

 

刺激部位の正確な決定を希望される方は、その旨を医師までお伝え下さい。ペンで位置を記入可能な水泳帽の持参をお願いしております。
受付で水泳帽を購入して頂くことも可能ですのでご利用下さい。

治療プラン

当院では複数のプロトコールをご用意しております。

 

短時間で必要十分な効果が期待できるプランA時間をかけて十分な治療効果が期待できるプランBを選択できます。

 

Aプラン:回復に必要十分な1,200回のパルスを6分40秒で、左側のみに。

Bプラン:さらなる回復を促す3,000回のパルスを10分以上で、左側と右側の両方に。

 

プランBにも2つのパターンを用意しております。

不安抑制と意欲改善効果に関してバランスの取れたプランB1意欲改善効果を重視したプランB2に関して、患者様の状態とご希望に合わせて最適なプランをご案内致します。

 

B1プラン:意欲・集中力を改善し、不安感も抑える、スタンダードプラン。

B2プラン:左側の刺激を増やし、意慾・集中力改善を重視したプラン。

 

Aプラン Bプラン
B1プラン B2プラン
治療部位 左側 左側 右側 左側 右側
パルス回数 1,200回 1,800回 1,200回 2,400回 600回
所有時間 6分40秒 10分 40秒×2回 13分20秒 40秒

 

初回治療は、Bプランをお勧めしております。

 

プランB1,B2によって、左側と右側の刺激回数(時間)が異なります。

 

その他、特に不安症状が強い方や、強迫性障害の症状を認める方には、B3プランも選択可能です。

 

B3プラン:不安症状の改善に特化したプラン。

 

1秒に1回(1Hz)の刺激パターンで、右側DLPFCを20分間刺激することで、不安症状を軽減します。

 

B3プラン
治療部位 右側
パルス回数 1,200回
所有時間 20分

 

医師による診察結果に基づいて、最適な治療プランをご案内致します。

 

TMSの料金について

Aプラン Bプラン
料金 1回2,900円(税込)

平日1回4,950円(税込)、平日初回無料

土曜1回5,950円(税込)、土曜初回無料

 

TMS治療は自由診療となります。

 

TMS治療を開始して頂く前に、別途、お困りの症状に関して、保険診療での診察を一度受けて頂く必要がございます。その後、TMS治療のみ継続して受けて頂くことが可能です。

 

TMS(Bプラン)治療の初回料金を無料としております。ぜひご体験下さい。

初回は、TMS 治療を副作用なく実施できるか、また、治療に有効な刺激強度まで上げることが可能かを確認いたします。
初回をBプランでお試し頂いた後、2回目からAプランに変更して頂くことも可能です。

 

TMS治療希望の方は、初診WEB予約の際にその旨をご記載ください。電話でご予約いただくことも可能です。

 

平日18時以降のWEB予約の場合、同日のTMS治療ができない場合がありますので、ご了承ください。

 

ご不明な点がございましたらお問い合わせ下さい。

10回分、または15回分の治療費の一括払いも可能です。

 

Bプラン
料金 平日 10回 45,000円(税込)
平日 15回 66,000円(税込)

 

Aプランは都度払いのみでのご案内となります。

 

土曜日は、平日の1回分に1,000円追加でお支払い頂くことで、追加治療可能です。

 

一括払いでお支払い頂いた場合、返金対応はできませんので、ご了承ください。

 

TMSの治療期間

海外の研究成果では、週に5回、セッション10〜20回での治療によって抑うつ症状が改善することが報告されています。

 

それらでは、5〜6回の治療で治療効果を実感できることが報告されていますが、当院での経験では、それよりも少ない治療回数で効果を感じ始める患者様もいらっしゃいます。

 

治療頻度と回数については、週1~3回、計10回の治療を1クールとし、十分な効果を期待される患者様には、2クール以上の治療をお勧めしております。

 

1日に複数回治療を行うことで、うつ症状の改善効果が高まるという報告もあり(Sonmez et al., Psychiatric Res 2019)、当院では、短期間での治療を希望される患者様には、1日に2回治療をご案内することも可能です。遠方より来院される方には、特にお勧めしております。

 

TMSの効果については、1クール終了時に治療効果の判定を行っております。治療10回ごとに実施する心理検査は無料で行っております。

 

TMS治療によって、うつ症状が寛解した場合、6割程度以上の患者様で、その後3ヶ月以上うつ状態が再発しないことが報告されています(Mantovani et al., Depress Anxiety 2012)。

再発をさけるための維持療法に関しては、回復後の1カ月は週に2回、その後2カ月は週に1回、それ以降は2週に1回の頻度で継続することで、再発の頻度が、薬物療法と同頻度に抑えられることが報告されています(World J Biol Psychiatry 2018)。

回復した後、徐々にTMSの頻度を下げて、良い状態を保っていただくことをお勧めいたします。

 

TMSの副作用

副作用はほとんどない治療法ですが、以下の症状が出る場合があります。

・刺激部位での違和感や疼痛
・一過性の頭痛

 

刺激部位での疼痛が強い場合は、弱めの刺激強度で実施することで対応いたします。

 

頭痛に関しては、頭痛薬を適宜内服して頂くことで、速やかに改善を認める場合がほとんどです。

TMSを行うことができない方

・体内埋込式の医療器具、頭蓋内磁性体を有する方
・妊娠中の方
・てんかん等のけいれん疾患

18歳未満の方へのTMS治療について

TMS治療は、成人だけでなく18歳未満の若年者のうつ症状に対しても有効であることが海外の研究で報告されています(Majumder et al., Cureus 2021)。
副作用については、384名の若年者(8-18歳、平均13歳)への治療で、てんかん等の重大な副作用はなく、頭痛が起こる場合はあるものの症状は軽度で、治療回数とともに軽減することが報告されています(Zewdie et al., Brain Stimulation 2020)。
若年者に対するTMS治療の研究報告をまとめた解析では、639名(てんかん既往歴84名)への治療で、てんかん発作が3名(0.14%)で認められたものの、副作用の大部分が頭痛であり、他に低頻度で、倦怠感、嘔気、痛みなどが報告されています(Allen et al, Pediatr Neurol 2017)。

以上から成人の場合と同様に、てんかん既往歴がある方や、てんかんのリスクがある方は治療を避けた方が良いでしょう。
TMS治療の利点は、抗うつ薬などの薬物治療を用いることなく、うつ症状の改善が期待できることです。抑うつ症状が重くて治療が必要であり、抗うつ薬を用いた治療を希望されない方には、TMS治療をお勧めしております。
なお、若年者で抑うつ症状を伴う場合、生活リズムが乱れている場合も多く、睡眠リズムを整えることは、うつ症状の改善に有効です。そのような場合は一時的に睡眠リズムを整える薬の併用をお勧めしております。

当院では、18歳未満の若年者の方(11歳以上の小児の方を含みます)を対象に、令和5年2月までに下のグラフ(図7)のように180名以上の方がTMS 治療を受けておられますが、これまでに重篤な副作用は認めておりません。
TMS治療の歴史が浅いため、成人・若年者いずれにおいても、長期的な脳機能に対する影響は未知の部分があるのも事実です。
しかし、若年者の方で、うつ状態で何もやる気が起きず、日常生活や学業に支障を来していた方が、TMS治療の結果、様々な活動に意欲的に取り組めるようになった例を多数経験しております。うつ状態の改善が、日常生活レベルでの適応を促して、結果的に心身の発達につながる場合もあります。

抑うつ症状を認める18歳未満の患者様で1クール(10回)以上のTMS治療を行い、その前後で治療効果の評価を行って頂いた方(46名)の結果を下に示します。

図8に示すように、TMS治療によりCES-D値(うつ病自己評価尺度)が低下し、うつ状態が改善したことが分かります。
図9のように、CES-D値の分布は、治療前(青色の棒線)では26~35点の範囲に当てはまる方が多い状況ですが、治療後(赤色の棒線)には、点数が低下して左側に偏り、症状が改善していることが分かります。

図10に示すように、CES-D値は4割近い方で10点以上の改善を認めます。4割近い方でうつ症状が寛解(CES-D値が16点未満)していることが分かります(図8)。

当院でTMSが有効であった症例

うつ病(男性)

うつ病の発症とともに、考えがまとまらない感じを自覚。仕事中、集中力が散漫になり、思考がまとまらない感じを実感されていた。薬物治療を行っていたが効果の実感がなく、本院にてTMSによる治療を希望されました。TMS治療により、集中力が高まる感じを自覚され、10回1コースの治療、2コース終了後には、注意力や集中力の回復を実感されました。TMS治療が、うつによる思考力の低下に効果を示した例です。

うつ病(男性)

仕事のストレスにより、明け方の3時頃に目覚めてしまい、希死念慮が生じ始めた。会社に通うことが辛くなり、うつ病の診断を受けて他院で薬物療法をされていました。できるだけ薬物に頼らない治療法を希望されて、当院を受診されました。うつで頭が回らず、書類が書けない、やる気が起こらないなどの症状が強かったようですが、TMS治療を行った結果、6回目位から会社で気分が落ち着いてくることを自覚できるようになったとのことです。TMSを継続しながら仕事を続けられています。

うつ病(男性)

元来、楽天的な性格であったが、職場でのストレスにより、疲れやすさを自覚するようになり、平日も土日もぐったりするようになった。やろうとしたことに億劫で取り組めず、仕事の中でストレスがかかると、頭がフリーズしたような感覚になったり、頭の働きが悪くなったように感じるようになったとのことです。職場の同僚と会話することへの不安から頭が真っ白になる症状も出現し、当院でTMS治療を開始されました。TMSを週2回のペースで続け、薬物療法も併用したところ、気分の改善を認めました。現在、安定して就労を続けられています。TMSを受けたあとは、頭がすっきりして活発になり、物事に積極的に取り組もういう感覚になるそうです。

双極性障害、うつ病の併発(男性)

単純作業が苦手で、他の人より遅い、仕事でミスをしやすいなどの自覚があったようです。就職後にうつ病を発症し、特に日中の疲労感・眠気が強く、就労を続けることが困難ということでした。当院で薬物治療を行うと同時にTMSを週に複数回のペースで施行する中で、頭が回らない感じが消失し、うつ病を発症する以前の明晰な思考が戻ってきたとのことです。TMSが頭の回らない感じに著効した例です。

ADHD、うつ病の併発
(男性)

他院にて5年以上抗うつ薬による治療を受けられていましたが、改善を認めなかったそうです。状が増悪し、注意力散漫でミスが多く、日中に眠くなる、自分でしゃべっている内容を忘れるなどの症状を発症しました。デスクに座っていられない。集中できない。何とか出勤できているものの、土日はほぼ寝たきりの状況とのことでした。本院でTMSによる治療を開始したところ、治療を受けると集中力が高まる感じがするとのことです。週に1回の治療を受けながら就労を続けられています。

双極性障害 うつ病の併発(女性)

20代で躁うつ病を発症し、多数の薬を服用されていました。うつ状態になり、投薬以外の治療法を希望されて当院を受診されました。TMSを10回終えた時点で、気分の改善を認め、それまで欠かせなかった眠剤なしで眠れるようになった。その後も、TMS治療を続けられ、就労を継続されています。

パニック障害

不安や焦りの感覚に加えて、体のしびれを伴い、気が狂うのではないかという恐怖も感じるようになり、パニック症状を発症。薬物療法に加えて、2週間と短期間でTMS治療を10回受けたところ、焦燥感やしびれの感覚などパニック症状が改善しました。その後、症状が再発することもなく就労を続けられています。

うつ病(50代男性)

プライベートの心労をきっかけに、頭が回らずに仕事が進まない、不安感が強くやる気がでないなどの抑うつ症状が出現し、仕事に支障が生じるようになったために来院されました。服薬は、以前から使われていた抗不安薬や睡眠薬などを継続し、
TMS治療を実施されました。
不安感を伴っていたため、B1プランを合計17回実施されました。TMSにより、心配事への過剰な不安感が落ち着き、仕事にも集中して取り組めるようになりました。
その後、服薬を調整されながら、症状が再発することもなく、仕事を続けられております。

うつ病(10代女性)

大学の受験勉強の時期に、先行きへの懸念から落ち込み感が高まり、それに伴って集中力が低下し、勉強に手がつかなくなり、来院されました。他院で双極性障害との診断を受けたとのことでしたが、躁病エピソードは明白でなく、単極性のうつ病としてTMS治療を実施しました。
意欲や集中力の向上を目標にB2プランを合計25回実施されました。服薬治療も併行しながら、1カ月ほど勉強を中断して治療に専念された所、意欲が回復し、再び勉強に取り組めるようになりました。服薬治療も終了し、うつ状態から回復されました。

うつ病(40代男性)

10年間ほど、抗うつ薬と抗不安薬を使いながら、仕事をされてこられました。頭にもやがかかっている感じを自覚され、来院されました。些細なことでイライラしたり、ネガティブな感情を抱いたりと、気分の不安定性を伴っておりました。
集中力の回復を目標にB2プランを開始しました。
20回程の治療で、集中力が回復し、気持ちが安定したとのことです。
TMS治療と同時に、長年使われていた抗うつ薬と抗不安薬の減薬にも取り組まれ、睡眠薬以外、無事中止することができました。その後も頻度を下げながら、TMS治療を続けられ、良い状態を保たれております。

うつ病(40代女性)

資格の勉強を始めたものの、頭が働かない感じが強く、勉強したことが暗記できないことを気にされて、来院されました。
うつ状態の評価尺度であるCES-D検査にて32点と抑うつ症状を認め、うつ状態が集中力低下の背景にあると考えられたため、集中力の向上を目標に、B2プランを実施しました。
服薬治療も併用され、10回ほど治療を受けられた時点で、集中力が高まってきていることを実感されました。
15回ほど実施した後に再度CES-D検査を行った所、16点と抑うつ状態は認めず、回復されました。勉強にも意欲的に取り組めているとのことです。

パニック障害、うつ病
(50代男性)

40代の頃に、動悸や胸痛などが強く、歩行できない程になり、内科で心電図など異常なく、パニック障害と診断されました。SSRIと抗不安薬による薬物療法で落ち着いていたものの、再び動悸が強くなり、集中力低下や眩暈を伴い、休日はベッドから出られないなど倦怠感も強く、TMS治療を希望されて来院されました。
薬物療法を継続しつつ、不安症状が強い抑うつ状態として、B1プランを実施しました。TMSを17回施行した後に、うつ状態の評価尺度であるCES-D検査を行った所、44点から18点へと大幅に改善しました。
5年程使われていた2種類の抗不安薬も中止することができ、SSRIと睡眠薬を中心に良好な状態を保たれています。

PTSD、うつ病(40代女性)

幼少期のトラウマが大きく、20代からうつ病を繰り返されていました。トラウマに関するフラッシュバックが高頻度に起こり、直近では、うつ病に対して2年間薬物治療を受けるも症状が改善せず、落ち込み感、不安感、イライラ感などが強く、TMS治療を希望されて受診されました。
フラッシュバックに対する薬物療法を開始し、B1プランでTMS治療を19回施行しました。その結果、うつ状態の評価尺度であるCES-D検査値は、51点から19点へと大幅に改善しました。TMS治療は20回程度で終了とし、その後は薬物療法のみ続けておりますが、フラッシュバックもほとんど起きることなく、家事や仕事に前向きに取り組まれております。

発達障害(ADHD)

発達障害(ADHD)の患者様に有効であった例については、症状別のご案内の中の発達障害のページでも紹介しております。

詳しくはこちら