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アルコール依存症の治療方法

アルコール依存症の治療方法

目次

アルコール依存の症状

具体的な症状

お酒に酔った状態を酩酊(めいてい)と言います。酩酊は心理的な変化から始まります。気分が高揚して、口数が増える、注意力が落ちるといった症状から始まり、飲酒量が増えるにつれて行動の変化も現れます。ろれつが回らない、歩くときのふらつきなどを認め、泥酔状態になると、意識がはっきりせず、自力で歩くことができなくなります。

 

いわゆる酒乱、酒癖が悪いなどと呼ばれる状態は、異常な酩酊と言われます。普通の酔い方と違って興奮が著しく、人格が変わったかのように暴れることもあります。意識は保たれているものの、翌日に飲酒時のことを思い出せないブラックアウトも起こります。幻覚や妄想が出現して、周りから理解できない行動を取る場合もあります。

 

酩酊時には、自分の行動や感情をコントロールすることが困難となり、ブラックアウトによって、酩酊時の行動を覚えていない場合も多く、気づかないうちに周囲の人を暴言や暴力で傷つけてしまうこともあります。

 

アルコール依存は、多くの場合、機会飲酒から始まり、数年以上の習慣的な飲酒を経て、依存症になっていきます。依存が進んでいく中で、お酒に酔った状態で暴言、暴力などの問題行動を起こし、周囲との人間関係、家庭内での配偶者や他の同居家族との関係に亀裂が生まれてくる場合も多いです。

アルコール依存の判断基準

アルコールへの依存状態であるかを判断する目安として、精神的な依存と身体的な依存の有無が目安になります。 精神的な依存が形成されると、飲酒量や飲酒時間を自分でコントロールすることが難しくなります。泥酔してしまうまで大量に飲酒したり、昼間から飲酒したりと、飲酒すべきでない状況でも飲酒を止めることができません。

 

問題があることを本人が自覚していて、周りから注意されるため、隠れて飲酒する場合もあります。ブラックアウトのため、酩酊時の行動を覚えておらず、酔いが醒めると自分の行いを詫びて、断酒を約束するものの、再び飲酒して問題行動を繰り返してしまうのも依存症の特徴です。

 

身体的な依存症状としては、アルコールへの耐性が高まって飲酒量が増えていくことと、次に述べる離脱症状の出現です。離脱症状の不快感を避けるために飲酒するようになります。

 

アルコールの離脱症状

大量のアルコール摂取が長期間つづいている場合、飲酒量を減らすと、離脱症状が出現します。

離脱症状が軽度の場合

軽症の場合は、イライラ感や不安感、焦燥感、抑うつ感など情動が不安定になります。寝付くのが困難となり、夜間に目が覚めます。

 

また、眠りが浅く悪夢をみたりします。手や指、まぶたなどが震えます。脈が早くなったり、動悸がしたり、汗が出たりと自律神経症状を認めます。これらの症状は飲酒をやめてから1日前後で出現し、3日位まで強く現れて、その後次第に弱まっていきます。

離脱症状が重い場合

離脱症状が重い時は、てんかんのような痙攣発作や、意識状態が変化して、時間や場所などが分からなくなるなど、せん妄状態になる場合や、幻視や幻聴などの幻覚が起こることもあります。

 

これらの変化が起こる原因は、アルコールによって脳の状態が変化しているためです。アルコールはGABA(ギャバ)受容体の働きを強める作用があります。GABA受容体は、神経活動を抑えて、不安を鎮めたり、眠りを促す効果があります。


しかし飲酒が続くことで、GABA受容体の反応性が低下し、脳が慢性的に活性化した状態となります。飲酒を止めると、不安や不眠などの症状が起こりやすくなります。

アルコール依存症に至るプロセス

アルコール飲酒時に問題行動を起こしてしまったり、離脱症状が出現する程になっても飲酒を続けてしまうのは、アルコールによる酩酊状態が、報酬効果を持つからです。不眠やストレスを解消しようと飲酒を始めた場合は、酩酊状態が自己治療として使われています。アルコールで寝付きが良くなったり、気分が高揚してストレスが緩和されたりすることで、飲酒が習慣化されていきます。

 

睡眠障害は、アルコール依存で多く見られる症状の一つです。アルコールは寝付きを良くするものの、眠りが浅いレム睡眠状態となる上に、利尿作用もあるため、中途覚醒が起こりやすくなります。結果的に睡眠の質が悪くなり、飲まないと寝られない悪循環を生み出します。 アルコール依存症に、うつ病や不安障害の合併が多いことも知られています。これは、飲酒がうつ病を引き起こすというよりも、アルコールによる酩酊状態が抑うつ気分を改善し、不安や緊張を抑えるため、うつ症状や不安を伴う人で飲酒が習慣化しやすいためだと考えられます。

 

このように、アルコールの酩酊状態がもたらす報酬効果によって飲酒が習慣化することが依存症の引き金となります。その後、飲酒を止めようと思ってもやめられない状態となります。もはや自分でコントロールすることが困難となり、強迫状態とも呼ばれます。
強迫とは、本人が望んでいなくても、止めることが出来ずに繰り返されてしまう状態です。 強迫が生まれる要因として、アルコールを減らした場合の不快な離脱症状を避けたい気持ちが関与します。

 

飲酒によってストレスや不安が解消される快刺激を期待する一方で、アルコールを飲めなかった場合の不快な気分も想像してしまうようになります。 耐性が生まれて、飲酒時の快刺激は薄れていき、同程度の効果を得るには、さらに大量の飲酒が必要となっていきます。そして、離脱症状の不快さから解放されることが飲酒の目的に変わっていきます。このようにして依存に至ると考えられます。

アルコールの代謝

治療について説明する前に、まず、アルコールが体内でどのように代謝されるか見てみましょう。

アルコール摂取への反応には個人差があります。
アルコールは主に肝臓で代謝され、大部分がアルコール脱水素酵素(ADH)で代謝されますが、大量に飲酒した場合などはミクロゾームのエタノール酸化系(MEOS)やペルオキシソームのカタラーゼでも代謝されます。


いずれの場合も、アセトアルデヒドが産生されます。大量の飲酒が続く程、ミクロゾームでのエタノール酸化系(MEOS)で代謝される割合が増えていきます。MEOS系は、細胞障害を引き起こす活性酸素を作り出すため、肝臓の傷害が起こりやすくなります。

 

アルコール代謝によって作られるアセトアルデヒドは、毒性が強く、吐き気や頭痛、顔面紅潮、頻脈などのフラッシング反応の原因となります。アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸へと代謝され、水と二酸化炭素に分解されます。

 

ALDHには1型と2型が存在し、ALDH2型がアセトアルデヒドの代謝に関わっています。ALDH2型には遺伝子多型があり、日本人の約5割が活性型、約45%が部分欠損型、残りの約5%が完全欠損型と報告されています。

活性型

活性型の人は、アセトアルデヒドをどんどん分解できるので悪酔い症状が出ず、いくらでも飲める人です。

部分欠損型

部分欠損型の人は飲めるけれど、アセトアルデヒドが貯まるので、飲酒量が増えると顔が赤くなったり、症状が出てきます。

欠損型

欠損型ではアルコールが全く飲めず、少量の飲酒でもフラッシング反応が起こるため、アルコール依存症になるリスクは低いことが知られています。

アルコール依存の脳内メカニズム

アルコールを含め、依存症を引き起こす薬物は、中脳腹側被蓋野(ventral tegmental area:VTA)のドーパミン分泌神経細胞を活性化して、ドーパミンの分泌を高めます。ドーパミン分泌細胞は、線条体の側坐核に位置する神経細胞とネットワークを作り、側坐核の神経細胞を活性化することで、楽しい感情や達成感など、快刺激を生み出します。

 

例えば覚醒剤であるアンフェタミンは、ドーパミン分泌細胞のシナプス終末にあるドーパミントランスポーターに作用して、細胞外のドーパミン量を増やすことで、強い快刺激を引き起こします。ドーパミンを増やすような経験や刺激は、快刺激として記憶され、同じ体験を繰り返すように気持ちを駆り立てます。

 

中脳腹側被蓋野(VTA)のドーパミン分泌神経細胞は、前頭前皮質からグルタミン酸分泌神経細胞による刺激で活性され、VTA内のGABA分泌ニューロンによって抑制されています。GABA分泌ニューロンは視床下部弓状核のオピオイド分泌神経によって活性化されます。これらの細胞ネットワークによって、正常なドーパミン分泌が調節されています。

 

アルコールを摂取すると、内在性のオピオイドの分泌が高まり、GABAの分泌が阻害されて、結果的にドーパミンの分泌が高まると考えられています。また慢性的なアルコール摂取によって、グルタミン酸の分泌も高まる結果、ドーパミンの分泌が促進されます。アルコールがどのようにオピオイドやグルタミン酸を高めるのか、その詳細は不明な部分もありますが、結果的にドーパミンの分泌を促すことで、快刺激として脳に記憶されます。 つまり、アルコール依存症の治療とは、脳が覚えてしまった快刺激のネットワークを作り直していく作業となります。

 

理想的なアルコール摂取量

世界保健機関(WHO)による1日のアルコール飲酒量のリスク評価は、次のようになっています。

 

リスク アルコール量(グラム)
男性 女性
低リスク 40g以下 20g以下
中程度リスク 41-60g 21-40g
高度リスク 61-100g 41-60g
最大リスク 101g以上 61g以上

 

アルコール依存症の治療において断酒が理想的ですが、WHOはアルコールの減量も価値があるという考えを示しており、治療により2段階リスクレベルを下げることが目標とされています。

 

お酒の種類によるアルコール含有量の目安は次の通りです。

種類 ビール 日本酒 焼酎 ワイン ウイスキー・ブランデー
中瓶1本
500mL
一合
180mL
一合
180mL
1杯
120mL
ダブル
60mL
アルコール度数 5% 15% 43% 35% 12%
アルコール量 20g 22g 50g 12g 20g

 

アルコール依存症の治療では、毎日のアルコール摂取量を記録することが大切です。減酒の目標値を立てて、摂取量や状況を記録していくことで、飲酒のタイミングや量をコントロールできる感覚を取り戻していくことができます。

アルコール依存症の治療薬

アルコール依存の治療は、断酒の達成と断酒の継続です。社会的な問題を起こしてしまった場合、家族が、本人が取るべき責任を肩代わりしてしまうと、本人の自覚を妨げてしまうことがあるため、家族が協力して、本人の責任で治療に取り組む姿勢を作ることが大切です。 薬物療法として以下のような治療薬が用いられます。

種類 主成分 商品名
オピオイド受容体拮抗薬 ナルメフェン セリンクロ
断酒補助薬 アカンプロサート レグテクト
抗酒薬 ジスルフィラム ノックビン
シアナミド シアナマイド

 

上記の治療薬の他に、離脱症状を防ぐためにベンゾジアゼピン系薬剤の服用が必要です。

 

治療効果の強さでは、オピオイド受容体拮抗薬(セリンクロ)と抗酒薬(ノックビン・シアナマイド)が特に効果が高く、断酒補助薬(レグテクト)がそれに続きます。服薬治療を続けた場合、1週間のうちで飲酒しない日は、セリンクロやレグテクトで4~5日、抗酒薬で6日以上になると報告されています。また、大量飲酒(男性で60g、女性で40g以上)を抑えられる日数は、抗酒薬で約45日、セリンクロで約25日、レグテクトで15日程度との報告があります。

セリンクロについて

セリンクロはオピオイド受容体を阻害することで、飲酒欲求を減らします。飲酒の1〜2時間前に服用すると、お酒を飲んでも、以前ほどおいしいと感じられなくなり、結果的に飲酒量が減少します。

 

セリンクロを半年間服用すると、大量飲酒の日数が1ヶ月あたり2~3日減少し、1日の平均的なアルコール量が約10g減少します。また4割の方で、1日のアルコール量を低リスクレベルまで下げることができたと報告されています。

 

セリンクロ服用時に頻度が多い副作用は、吐き気、めまい、頭痛などですが、いずれも症状は軽く、治療開始に一時的に生じる場合がほとんどです。副作用で治療を続けることが出来ない方は1〜2割です。

レグテクトについて

断酒補助薬レグテクトは、グルタミン酸の受容体に働きかけて、その作用を調節します。
アルコール依存症の状態では、グルタミン酸受容体が強く活性化しており、レグテクトはその働きを抑えると期待されます。

 

効果としては、断酒時の不快感を軽減し、飲酒したくなるような刺激によって再飲酒への渇望感が起こるのを抑える効果があると言われています。
レグテクト服用により、断酒期間が延長し、断酒後に再飲酒してしまう割合を下げることが報告されています。

 

レグテクトは、1日3回、毎食後に服用します。副作用として約1割の方で下痢が起こりますが、整腸剤等で改善する場合がほとんどです。
レグテクトは肝臓で代謝されず、腎臓から排泄されるため、飲酒による肝機能異常の影響を受けないことも長所です。

 

治療薬を組み合わせることも有効です。セリンクロとレグテクトを組み合わせると、断酒できる日数が増えて、大量飲酒の日数も減少するなど良好な効果が得られることが報告されています。

ノックビンとシアナマイドについて

抗酒薬(ノックビン、シアナマイド)は、服用を続けることができれば、断酒効果が極めて高いです。抗酒薬はアセトアルデヒドを代謝するALDH酵素の活性を阻害することで、アセトアルデヒドの蓄積を誘導します。アセトアルデヒドは、悪酔いの症状の原因物質であり、抗酒薬を服用中に少量でも飲酒すれば、頭痛や吐き気などの症状が強く起こります。

 

シアナマイドは即効性の水薬であり、飲んでから5分位で効果が出ます。そして約1日効果が続きます。1%溶液として5〜20mL服用します。

 

一方、ノックビンは効果がゆっくりと続く粉薬です。効いてくるまでに数時間かかりますが、一度使うと1〜2週間、効果が続きます。効果が長く続くので、一度使ってしまえば、飲酒への諦めが続きます。0.1〜0.5gで始め、維持量として0.1〜0.2gを続けます。1週間ごとに休薬期間を設けることもできます。

 

抗酒薬を飲んでいる時は、料理酒などは煮きって使うことや、洋酒が使われているお菓子類を食べないように気をつけてください。抗酒薬は服用さえ続けることができれば、高い断酒効果が期待できます。

 

上記の治療薬の他に、離脱症状を防ぐために、ベンゾジアゼピン系薬剤の併用が必要です。アルコールの長期摂取によってGABA神経伝達が抑えられており、脳が過活性の状態になっているため、断酒を始めると不眠や不安が生じます。睡眠薬や抗不安薬使って、必要に応じて症状を抑える必要があります。

 

また、アルコール依存症の自助グループとして、断酒会とアルコホーリクス・アノニマス(AA)が存在します。
治療薬を使って断酒に成功した後は、長期的に断酒を継続するためにも、ぜひ自助グループへの定期的な参加を検討してみてください。