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食物依存症

食物依存症(過食性障害)の治療方法
 

目次

過食症の分類と
診断(①)

コントロールできずに一気にたくさん食べてしまう過食行動(むちゃ食い、ドカ食い)を繰り返してしまう場合、摂食障害の可能性があります。過食を伴う摂食障害として、次の2つが挙げられます。

 

 

食物依存症(過食性障害)

食べる行為をコントロールできず、悪影響があると分かっていて、やめたいと思っていても、食べることがやめられない強迫的な過食が特徴的です。食べた後に嘔吐することはありません。

 

詳しい判断基準

  

 

食物依存症は、男女ともに2%程度が発症し、発症は若年に限りません。食物依存症は、ストレスや疲れに対するリラックス効果から、自己治療として口当たりの良い食べ物(糖分、塩分、脂肪分が高い食物)を摂取する習慣から始まり、快刺激からその行動が強化されて、行為依存を生み出した状態です。

 

神経性過食症

過食があって、コントロールできない感覚を伴う点は、食物依存と似ていますが、体重増加を防ぐための代償行為が特徴的です。自己評価が体型や体重の影響を強く受けていて、太ることや体重増加への恐怖から嘔吐したり、下剤を用いたりします。

 

詳しい判断基準

  

 

 

神経性過食症は女性に多く、0.5〜1%が発症します。10〜30代の若い女性に多く、発症のピークは10代後半です。自己評価が、体重や体型から過度に影響を受けており、肥満への恐怖が強く、過食して体重が増えると自己評価が下がる心理症状を伴っています。日中ほとんど食べず、夜に過食が激しくなって睡眠不足になるなど、生活リズムの乱れを伴いがちです。過食を止められずに無力感が強く、嘔吐後は自己嫌悪が高まります。

 

神経性過食症の方では、自分の感情を言葉にしたり、人に伝えることが苦手で、空腹感や満腹感が分からないなど、失感情症を伴う場合もあります。神経性過食症の発症リスク要因として、肥満、うつ病などの気分障害、幼少期の虐待、自己肯定感の低下、完璧主義や白黒思考、家族の問題、親の体重・体型へのこだわりなどが挙げられます。


食物依存症のメカニズム(②)

ストレスは、脳の感情中枢である扁桃体を活性化して不安感を生み出し、視床下部からのCRH分泌、下垂体からのACTH分泌を介して、副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促します(ストレス応答)。慢性的なコルチゾールの増加は、脳を覚醒状態にして、イライラした感情や不安感、抑うつ気分の原因となります。

 

慢性的なコルチゾールの上昇は、食欲を亢進するニューロペプチドYの分泌を高めて、高糖質・高脂肪の食物への欲求を高めます。ストレスによってコルチゾールが高くなりやすい方ほど、食事量が増える傾向にあることが報告されています。

 

さらにコルチゾールの上昇は、血糖値を下げるインスリンや食欲抑制作用をもつレプチンの慢性的な増加を引き起こし、それらのホルモンが効きづらい体になり、
肥満の原因となります。

 

このような状況では、空腹感を満たすために食べるのではなく、ストレスによるイライラした感情のはけ口として食行動が起こっており、食物の感情的摂取(emotional eating)と呼ばれます。食物依存症は、感情的摂取が習慣化することで始まります。

 

一方で、依存の形成には脳の報酬系が関与しています。口当たりの良い食物、特に糖質は、コカインなど依存性薬物と同じように、脳の腹側被蓋野という領域で快楽物質ドーパミンの分泌を促進します。ドーパミンは脳の快楽中枢である側坐核を刺激して、快刺激として記憶されます。その結果、糖質を含む食物への渇望感が生まれるようになります。

 

報酬系の活性化はストレス応答を抑える働きを持つため、ストレスを緩和しようと、糖質など口当たりの良い食物の感情的摂取が常習化していきます。

 

つまり、ストレス反応によりコルチゾールが慢性的に増加して、食物の感情的摂取が習慣化することに加えて、糖質が脳の報酬系を活性化することが食物依存の背景にあります。

 

 

過食症の予後(③)

食物依存症(過食性障害)の長期的な予後はよく分かっておりませんが、肥満を合併する場合が多くあります。実際、体重コントロールを目的に受診する方の3割に食物依存症を認めると言われています。心理療法や薬物療法により、半数程度の方で過食衝動を抑えることができるようになると言われています。

 

神経性過食症の場合、5〜10年間経過観察した結果、半数が完全に回復し、1/3はある程度の回復を認め、10〜20%程度は同様の症状が続くと言われています。体型や体重は正常範囲内であることが多いです。

 

神経性過食症の方で予後が良いのは、若年での発症、症状を認める期間が短いことなどが挙げられます。
反対に、改善意欲が低いこと、薬物の乱用、肥満の既往歴、境界性パーソナリティ障害の合併などでは、
予後が悪いことが報告されています。

 

食物依存症の心理療法(④)

食物依存の背景には、ストレスへの自己治療としての役割がある場合が多く、ストレス時に過食に頼らずに気分を落ち着けられるよう、運動、散歩、瞑想、ヨガなど新しい行動習慣を取り入れて、ストレスが少ない生活環境に変えていくことが大切です。

 

もし何か食べたくなったら、自分の気持ちをその場で確かめてみます。本当にお腹が空いているのか、疲れているのか、気分が落ち着かないのか、怒っていないか、寂しいのか。気持ちが分かったら、それに合った適切な対処をしましょう。空腹感とその時の感情、それに伴う行動を記録することも役立ちます。

 

空腹と満腹の感覚を意識するようにして、お腹が空いていると感じる時だけ食べるように心がけましょう。自分の内側からの空腹の信号に気づくようになると、外側からの影響を受けにくくなります。

 

過食しそうになったときの
対策

 

神経性過食症の心理療法(⑤)

神経性過食症では、自分の体型を正しく認識していない場合が多く、自分は太った体型(肥満)であるという自己認識がある場合が多いです。また自尊感情(自分は価値がある存在だという自己肯定感)が低く、
ネガティブな感情から肥満の自己認識が強化される傾向にあります。

 

神経性過食症における食事や体重のコントロールは、自己統制感(自分の行動をコントロールできる感覚)を得るために始まっている場合も多いですが、食事制限を厳格にするほど、反動として過食や代償行動が起こり、結果として挫折体験から自尊感情が低くなる悪循環に入ってしまいます。

 

治療としては、自尊感情が低い状態に留まらないように気をつけることです。自尊感情を高めるための具体的な方法としては、現実的な範囲で「将来こうなりたい自分」をイメージして、リストを作ることから始めるのも良いでしょう。その自分に近づくためのプランを考えて、成功したことやできたことを意識することで、自尊感情が高まっていきます。

 

完璧主義や、他者からの否定的評価に対する懸念は、自尊感情の向上を妨げます。自分に厳しくしすぎたり、善悪のみで判断することを避け、自分の気持ちや欲求を意識して、他者に話せるようになることで、自分自身のあり方が受容できるようになっていきます。

 

過食・嘔吐を抑えるためには、次のような点に気をつけましょう。

 

1回でも過食の頻度が減れば自分を褒めましょう。
嘔吐により過食を帳消しにできると考えている場合は、嘔吐をやめることが先決です。食後は吐ける場所に近づかないようにしましょう。食後の嘔吐を30分我慢し、それを延ばしていきます。

 

体重や容姿を生活の中心に置かないようにするには、信じられる目標や趣味、活動を探しましょう。
他のものに興味を深く持てれば持てるほど自分が好ましく思えて、食べることだけに意識が集中しないようになっていきます。

 

過食症の薬物療法(⑥)

種類 成分名 商品名
SSRI セルトラリン ジェイゾロフト
抗てんかん薬 トピラマート トピラマート
食欲抑制薬 マジンドール サノレックス

 

 

過食を抑えるために有効な治療薬は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)であるセルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)と、片頭痛やてんかんに用いられる薬剤であるトピラマート(商品名:トピラマート)です。
また、食欲抑制剤であるマジンドール(商品名:サノレックス)も効果があります。

 

SSRIが第一選択として使われます。過食の頻度が下がり、嘔吐など排出行動を抑える効果があります。米国では、フルオキセチン(商品名:プロザック)が神経性過食症への適応を獲得しています。日本では、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)が処方可能です。セルトラリン100mgを8〜12週間継続することで、6〜7割の方で過食頻度が減少したことが示されています。他には、デュロキセチン
(商品名:サインバルタ)を十分量、12週間服用することで、過食頻度が減少したという報告もあります。

 

SSRIは、うつ病やパニック障害の治療では、数ヶ月単位での服用が必要ですが、過食症に対しては、数週間など短期間で効果判定を行います。十分量を3週間服用しても過食の頻度が変化しない場合、それ以上続けても効果はあまり期待できません。効果を認めた場合は、服薬を続けることで再発を予防する効果が示されています。

 

トピラマートは、気分安定効果もある抗てんかん薬の一つであり、海外では片頭痛の予防薬としても用いられます。食欲抑制効果は、100mgから200mgの容量で認められます。トピラマートは、体重を減少させる作用もあるため、肥満にも効果的です。

 

トピラマートの副作用として、皮膚の感覚異常、口渇感、頭痛、吐き気、眠気などが起こる可能性があるため、25mg(または25mg錠、朝夕2回)など少量から開始して、副作用がないことを確認した上で、100mgまで増量します。25mgで効果を認めることはほとんどありませんが、100mgまで増量すると、食べ物への渇望が落ち着き、過食の頻度も下がります。効果が不十分な場合は、200mgまで増量できます。トピラマートは体重減少作用を伴うため、標準から低体重の方の場合は、注意して使う必要があります。トピラマートとSSRIを組み合わせる治療も有効です。

 

BMI(Body Mass Index)が35以上の高度肥満の方には、食欲抑制剤マジンドール(商品名:サノレックス)も適応となります(当院では自費診療での扱いのみとなります)。サノレックスは、空腹感を抑えて、食事の摂取量を減らす効果が期待できます。夜に過食が起こる場合、昼すぎに服用することで、夜間の食欲を抑えることができます。副作用として、眠気などが起こる可能性があります。

 

過食症では心身両面からの治療が必要です。薬物療法とカウンセリングなど心理療法を組み合わせることで、最大の治療効果が期待できます。過食の頻度が減るにつれて、自己効力感が高まり、健康的な食生活を取り戻していくことができます。