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社交不安障害
(あがり症)
の治療方法

アルコール依存症の治療方法

目次

社交不安障害の症状

具体的な症状

社交不安障害とは、あがり症とも呼ばれますが、不安障害の中でも一番多いタイプです。
社交不安とは、他人と会話や食事をすることや、人前で何かして注目を浴びるかもしれない社会的状況への強い不安感と、その状況を避けようとする回避症状が特徴です。他人に悪く評価されることへの恐怖感が背景にあります。

正常な範囲内の社交不安と、治療が必要となる社交不安障害の間に明確な境界線はありません。正常範囲と考えられる社交不安、いわゆる性格的な内気では、例えば知り合いがいないパーティーに出かける時に不安を感じるなどの症状が起こりますが、特に治療は必要ありません。

 

しかし、社交が避けられない状況に対する不安感や症状が苦痛を感じるほどであり、生活に支障が出ている場合は、社交不安障害と診断されます。不安を感じる状況としては、他人に紹介されること、他人から批判されること、注目の中心になること、行動している様子を見られること、公の場で発言やスピーチをすること、権威のある立場の人に会うこと、公の場で話す・電話をかける・飲食する・トイレに行くことを見られる状況などが挙げられます。そのような状況で、不安や恐怖が起こります。鼓動が高まり、赤面したり、急に汗が出てきたりします。喉や口がカラカラになったり、身体が震える、筋肉が痙攣するなどの症状を認めます。醜形恐怖を伴う場合もあります。

 

社交不安障害は、若年で発症することが多く、社交不安障害の5割が11歳までに、9割が23歳までに症状を自覚すると言われています。逆に、25歳以降での発症はほとんどありません。この理由は、こうした若年期に家族以外の人との人間関係が作られていく中で、他者から自分がどう見られているか、という自意識が形成されるためだと考えられます。他者から拒絶された体験は強いストレスとなり、社交不安障害のきっかけになります。 社交不安障害の人は、おとなしく、恥ずかしがり屋、内気、他人に関心がなさそうなどと思われる場合が多いようです。

 

実際は、友人を作りたい、人の輪に入りたい、交流に参加したいという気持ちを持っていることも多いものの、不安症状のために踏み出すことが困難になります。
社交不安障害の方は、不安が事実に基づいた合理的なものではないことが分かっていても、不安感を抑えることができません。不安を伴う活動は完全に避けられているか、または強い恐怖に耐えながら行われています。生活の多くの場面で不安感が起こるため、学業や仕事に障害となることもあります。社会生活に支障を来している場合は、病気として治療することが必要になります。

 

症状が強い場合、ひどく人の目が気になり、他の人が見ている以上に、自分の細部や欠点に注意が向いてしまいます。「皆の前で恥をかいたらどうしよう」という予期不安が高まり、学校や仕事に行けなくなることもあります。実際の批判をはるかに超えた自己否定感につながると、「こんな自分が情けない」などと自分を責めて、抑うつ症状やアルコール依存症につながるリスクもあります。

 

社交不安障害の
メカニズム

社交不安障害の発症には、性格的な要因に加えて、きっかけとなった出来事があることも多いようです。人の前で発表をした時に、声が上ずって赤面し、恥ずかしい思いをしたような経験から、皆の前でまた恥をかいたらどうしようと予期不安が起きるようになります。

 

そのことばかり考えるようになり、再びその状況に直面すると、緊張のあまり、体がほてったり、手が震えたり、鼓動が早まったり、汗が出るといった身体反応を伴うようになります。この時、脳の中では、過去の体験が海馬から記憶としてよみがえり、前頭前野が状況を判断し、それらの情報が扁桃体に伝わります。扁桃体は、その状況を危険で回避すべきと判断し、不安や恐怖の感情を引き起こします。さらに扁桃体は、脳のさまざまな部位を活性化して身体反応を起こします。

 

脳幹の青斑核を刺激すると、ノルアドレナリンの分泌が起こり、鼓動が高まったり、手や背中に汗をかく感じがしたりします。視床下部を刺激すると、副腎からコルチゾールの分泌が高まり、血圧が上がり、覚醒状態になります。水道周囲灰白質を刺激すると、すくみ反応や回避反応を引き起こします。

実際、社交不安障害の方では、扁桃体や島皮質の活性化が高まっていることが分かっています。

 

不安な状況の刺激に対して、他の人よりも、これらの領域の活性化が起こりやすい状態となっています。特に扁桃体の活性化の程度が、不安感の強さと関連するようです。そこで、扁桃体そのものや、扁桃体に起因する脳の異常応答を落ち着けることが、症状の改善につながります。

社交不安障害の治療

社交不安障害は、無治療の場合、3割程度の方が数年後には症状がなくなると言われています。逆に半数以上の方では、多少とも症状が続くようです。社交不安障害の治療として効果的であるのが薬物療法と認知行動療法です。薬物療法は下記の3つが使われます。

 

(1)βブロッカー、
またはαβブロッカー

(2)ベンゾジアゼピン系抗不安薬

(3)選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、または選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

 

緊張する場面で、鼓動が早くなったり、汗が出たり、赤面したり、手が震えたりする反応は交感神経が活性してアドレナリンの分泌が高まったことが原因です。

βブロッカー、またはαβブロッカーは、交感神経の活性化を抑えます。
服用して30分〜1時間で効果が出るので、緊張する場面の前に使用することで、身体反応を抑えることができます。

分類 主成分 商品名
βブロッカー カルテオロール ミケラン
αβブロッカー アロチノロール アルマール

 

βブロッカーはアドレナリンのβ1とβ2受容体をブロックして、交感神経の作用を抑えます。自律神経症状のなかでも震えが特に強い場合は、αβブロッカーが効果的です。β1受容体の遮断作用によって心拍数を抑え、α1受容体の遮断作用によって血圧を下げる作用があります。 身体反応が起こらないようになると、人前で発表する場面でも落ち着いて対応できるようになり、予期不安も収まっていきます。

 

ベンゾジアゼピン(BZD)系の抗不安薬も、30分〜1時間で効果が現れる即効性があります。βブロッカーが、動悸や震えなどの身体反応を抑える効果が強いのに対して、抗不安薬は、扁桃体の活性化を抑えることで、不安感そのものを抑えることができます。

 

扁桃体には、不安反応を生み出す神経細胞のネットワークが存在します。これらの神経細胞の活性は、抑制性の神経細胞(ニューロン)によって調整されています。抑制性ニューロンはGABA(ギャバ)を放出して、神経細胞の活性を抑制します。ベンゾジアゼピン(BZD)系の抗不安薬は、GABA受容体に直接結合して、ダイレクトに扁桃体の神経細胞の活性を抑えます。

 

抗不安薬を用いると、不安感が収まるだけでなく、扁桃体の活性化によるノルアドレナリンの分泌も抑えるため、動悸や過呼吸、発汗、赤面などの身体反応も抑えることができます。

 

抗不安薬として以下のような薬剤が使われます。

成分名 商品名 分類
エチゾラム デパス 短時間型
ロラゼパム ワイパックス 中時間型
アルプラゾラム ソラナックス 中時間型
ロフラゼプ酸エチル メイラックス 長時間型
クロナゼパム リボトリール 長時間型

 

抗不安薬やβブロッカーは、症状を抑える即効性がありますが、社交不安障害が長期化していて予期不安が強く、日常生活や行動に支障が出ている場合、頓服薬だけでは効果が不十分な場合があります。

 

社交不安障害の根治的な治療には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が一番です。これらの薬剤を8~12週間使うことで、5〜6割の方で社交不安障害の症状の改善が認められます。

 

8週の時点で効果が不十分でも、12週位で効果が現れる場合もあります。
具体的には、下記の薬剤について効果が認められています。

分類 成分 商品名
SSRI パロキセチン パキシル
セルトラリン ジェイゾロフト
エスシタロプラム レクサプロ
フルボキサミン ルボックス/デプメール
SNRI ベンラファキシン イフェクサー

 

SSRIやSNRIはセロトニンを高めて、扁桃体の活性を抑えます。脳幹の縫線核からセロトニンを分泌する神経細胞が扁桃体の抑制性ニューロンにつながっており、SSRIやSNRIを使うことでセロトニンの分泌が高まります。
その結果、抑制性ニューロンからのGABAの放出が高まり、扁桃体の活性化を抑えることができます。

 

セロトニンの濃度が治療有効レベルに達するまで時間がかかるため、SSRIやSNRIの効果を感じられるまでには、数週間の時間が必要です。効果が出るまで焦らずにしっかりと治療を続けることをお勧めします。

社交不安障害の
認知行動療法

社交不安障害には認知行動療法も有効です。社交不安障害は、完全に症状がなくなる方は2割程度であり、多くの方では多少とも症状が続くと言われています。

 

その原因として、背景にある認知様式を変えることが難しいためではないかと考えられています。社交不安障害には、(1)他者から否定的に評価されることへの恐怖と、(2)自意識が過剰な状態が関わっています。 他者に良い印象を与えなくてはいけない、という固定観念を持つ場合が多いようです。

 

自分はうまく出来ないという思い込みが加わり、自分に対して実際以上にネガティブに評価してしまいます。他者から否定的に評価されることへの不安は、自意識が過剰であることで一層強く感じられます。

 

実際には、他者は、自分が考えているほど否定的に評価していない場合も多いですが、自分の感情に気を取られて、周囲の人を冷静に観察しづらくなります。結果的に社交的な状況を避けるような行動習慣が身についてしまうと、慣れていくことが難しくなります。 誤った固定観念を修正し、自意識が過剰な状態を解消して、適応的な行動パターンを獲得していくことが必要です。そのためには、自分の考え方のクセに気づくことが助けになります。認知行動療法では、思考記録表が広く使われています。

不安になったり、気持ちが落ち込んだりした出来事について、次のステップに従って思考記録表を書いてみて下さい。

①どのようなことが起こりましたか?

出来事と自分の行動について、できるだけ具体的に一つの出来事を切り取って書き込んでみましょう。

②どのような気持ちがしましたか?

嬉しいとか悲しいとか一言で、その時感じた気分をすべて挙げてみましょう。それぞれの気分を0〜100%で評価しましょう。

③どのような考えが頭に浮かびましたか?

自動思考とは、そのときどきでぱっと頭に浮かんでくる考えやイメージです。主語を入れて書いてみましょう。先ほどの気分と一番結びついている考えはどれでしょうか?

④考えを正しいとする事実を振り返りましょう。

なるべく客観的な事実を書いてみましょう。

⑤考えと矛盾する事実を振り返りましょう。

自動思考と矛盾する事実はないか、反証を探してみましょう。

⑥バランスのよい考え方をしましょう。

根拠と反証に基づいた新しい考え方を導き出してみましょう。

⑦気分が変わりましたか?

気分と強さを書いてみましょう。

新しい考え方に基づいて、行動計画を立ててみましょう。

 

自動思考をうまく思い浮かべるには練習が必要です。自分についてどう考えたか、相手についてどう考えたか、こんなことが起こるのではと心配したことはあるか、など振り返ってみましょう。

 

思い込みや白黒思考、べき思考、自己批判、深読みなど考え方にクセがある場合があります。強い気分と結びついた考え方をホットな自動思考と呼びます。最も辛い気分に関係する考えを探してみて下さい。

 

辛い気分の時に反証を考えるのは難しいですが、冷静に見逃していることはないか、他の人が同じ立場にいたらどうアドバイスするか、自分の力ではどうしようもない事柄で自分を責めていないか、これまでにどのように考えたら楽になったかなど振り返ってみて下さい。

 

一人で解決が難しい場合、カウンセリングなど専門家の協力を得ることも有効です。通常、認知行動療法は、1セッション45~50分で、10回以上のセッションが標準的です。
不安感の背景にある考え方に気づくことで、見方を変えて、不安が起こりにくい適応的な考え方を習得することができます。
その上で、不安な状況にあえて直面することで、対処できる自信が身につきます。そのような経験を通じて、不安感を克服することができるようになっていきます。