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セロトニン再取り込み

阻害薬(SSRI)による

パニック障害の治療

目次

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の長所と短所

 

パニック症状は、心理的な不安感と、身体症状(動悸、めまい、息苦しさ、胸の圧迫感など)を伴います。これらの症状は、扁桃体が活性化して、脳のさまざまな領域にシグナルが送られる結果生じます。

 

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、扁桃体の神経細胞の活動をダイレクトに抑えて、不安感とパニック症状を抑える働きを持っています。

 

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の長所は、即効性があり、効果を実感しやすことです。眠気を伴う場合もありますが、副作用が軽いことも使いやすい一因です。パニック症状が強いときには、すぐに抗不安薬を用いて治療を開始する必要があります。

 

一方で、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の服用が長期間にわたると、薬剤への耐性が生じる場合があります。 さらに、薬をやめようとすると、不安感や焦燥感が強まったり、不眠が出現したりと退薬症状が生じることもあります。

 

症状が悪化したと感じて、薬を止めることが難しくなる場合もあります。

 

このような退薬症状がなく、パニック症状を治療することができるのが、セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI)です。

 

パニック障害に有効なセロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

多くのSSRIは、パニック障害だけでなく、他の不安障害、たとえば強迫性障害や社会不安障害にも有効であり、適応が認められています。

 

セロトニン再取り込み阻害薬の国内外承認・有効性について

表は横にスライドできます。

パニック障害 強迫性障害 社会不安障害
パキシル
ルボックス デプロメール
ジェイゾロフト
レクサプロ
イフェクサー
トリンテリックス

◎…国内で承認されている ○…海外で有効性が報告されている

 

即効性のあるベンゾジアゼピン系抗不安薬と異なり、SSRIによる効果が実感できるまでには、2~6週間の継続的内服が必要だと言われています。

 

また、薬によって副作用の出方が異なり、人によって薬の相性が異なるため、自分に合った薬を探す必要があります。

 

セロトニン再取り込み阻害薬の作用機序

セロトニンは、シナプス小胞の中に蓄えられており、神経細胞の末端から放出されて、シナプスを介して次の神経細胞の受容体に結合します。セロトニンが受容体に結合すると、シグナルが伝わります。

 

放出されたセロトニンは、セロトニントランスポーターの働きによって、再び、シナプス前の細胞のシナプス小胞に取り込まれます(再取り込み)。

 

セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)は、セロトニントランスポーターの働きを阻害することで、セロトニンの再取り込みを抑制し、シナプス部分へのセロトニン蓄積を引き起こします。その結果、セロトニン受容体を介したシグナルが強まります。

 

 

SSRIの投与により、数時間で急速にセロトニンレベルの上昇が起こります。この変化により吐き気等の副作用がおこります。

 

セロトニンの上昇は、細胞体の自己受容体を刺激して、フィードバック機構により神経細胞の活動を抑制し、セロトニン分泌が低下する結果、脳内のセロトニン濃度はそれ以上増えずに、しばらく落ち着きます。

 

その後もSSRIの服用を続けることで、自己受容体の反応性が下がり、神経細胞の活性が戻り、数週間の単位でセロトニンの濃度は上がっていきます。

 

そして最終的に、不安やパニック症状に対する治療効果が現れるレベルに達します。

セロトニン再取り込み阻害薬の治療効果

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬を使った場合には、効果がすぐに認められて、不安感は1〜2週間で速やかに改善していきます。

 

それに対して、SSRIを使った場合、治療効果は2〜6週間の時間をかけてゆっくりと現れてきます。SSRIの開始直後に一時的に不安が増悪する場合もあり、SSRIを始めた直後は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用が勧められます。

 

SSRIによる治療効果が現れ始めると、継続することで不安は収まっていき、治療を2ヶ月も続けると、5割以上の方がパニック発作から解放されます。

 

1年後には、8割以上の方でパニック発作が起こらなくなると報告されています。 パニック症状の中でも、動悸など自律神経症状は比較的すぐに回復するのに対して、バスや電車など人が多い場所で恐怖を感じる広場恐怖症を伴う場合、症状の回復に時間がかかります。

 

広場恐怖症は、治療を半年位続けることで、改善効果はどんどん高まっていき、1年間の治療により、7割程度の方で、人が多い場所を回避する行動が改善すると報告されています。症状が回復すると、次は薬を減らすステップに進みます。

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の場合、薬をやめることで、不安症状は一時的に増悪します。これを退薬症状と言います。そのため、症状が悪くなったと感じて、薬をやめることが難しい場合もあります。

 

一方、SSRIの場合、薬をやめても、不安症状が高まるといった退薬症状が起こらないことが特徴です。そのため、症状の再発を感じることもなく、減薬をスムーズに進めることができます。

 

パニック症状の完治には、症状がなくなるまでSSRIでしっかりと治療を行い、それから徐々に減薬して治療を終えることが理想的です。

 

セロトニン再取り込み阻害薬の副作用

表は横にスライドできます。

副作用
神経系 不安、眠気、不眠、頭痛、めまい
消化器系 吐き気、下痢、腹痛、食欲不振、口の乾き
心血管系 動悸
皮膚 発汗、発疹、かゆみ、ほてり
泌尿器系 尿が出にくい、性機能障害

 

SSRIは、薬によって副作用のパターンが異なりますが、吐き気が問題になることが多いです。吐き気を抑えるために、服用開始して最初の数日間は、吐き気止めの併用が有効です。

 

吐き気が起こる原因は、消化管などの腹部の臓器から脳に情報を伝える迷走神経にセロトニン受容体が存在するためです。

 

迷走神経が活性化する結果、気持ち悪さや吐き気が起こる他、胃の動きが悪くなったり、膨満感を感じることもあります。迷走神経の活性化は、めまいや頭痛などの原因ともなります。

 

体内のセロトニンの9割は消化管で作られており、セロトニン受容体は、腸の平滑筋細胞、分泌細胞、腸管ニューロンなどに存在します。セロトニンは、腸管の蠕動運動の促進、血管拡張、腸上皮細胞の分泌促進などを促す結果、腹痛や下痢が起こります。

 

体のほてりを感じることもあります。セロトニンが血管内皮細胞の受容体にも働きかけて、一酸化窒素の産生を促し、血管拡張を引き起こすためです。 セロトニン受容体は、尿道括約筋を制御する神経細胞にも存在し、稀ですが、排尿時の違和感を感じることもあります。

 

また、メカニズムは完全に分かっていないものの、性欲が落ちたり性機能障害を伴う場合もあります。

 

副作用は、SSRIを開始した直後に強いですが、セロトニンの上昇に対する適応反応として、応答性が下がるため、吐き気や腹痛などの副作用も、数日から1週間程度で収まる場合が多いです。

 

セロトニン再取り込み阻害薬が不安を抑えるメカニズム

 

では、どうして脳内のセロトニンが高まると、不安を抑える効果があるのでしょうか?

 

不安や恐怖反応は扁桃体によって制御されています。

SSRIの投与により不安が改善した場合、扁桃体の活性化が収まることが分かっています。

 

扁桃体には、不安感を生み出す神経細胞のネットワークが存在します。

扁桃体の基底外側部の細胞が、前頭葉や海馬などから情報を受け取り、中心部の神経細胞へと情報を伝えます。

 

そして、大脳辺縁系や青斑核などへと出力されることで、不安感やパニック症状が起こります。

扁桃体には、不安を生み出す神経ネットワークを抑える抑制性の神経細胞(ニューロン)も存在します。

 

これらの抑制性ニューロンには、セロトニン受容体が存在し、中脳の背側縫線核(dorsalraphe)に存在するセロトニン分泌ニューロンからの刺激を受け取ります。

 

セロトニンの刺激により、抑制性ニューロンからGABAが放出されて、扁桃体の不安ネットワークを構成する神経細胞を抑制します。 セロトニンは、不安を生み出すネットワークを構成する神経細胞に直接働きかける場合もあります。

 

以上から、セロトニンは、扁桃体の神経細胞に直接作用したり、あるいはGABAを分泌する神経細胞に働きかけて、結果的に、不安を生み出す神経細胞の活性を抑えると考えられています。

 

ベンゾジアゼピン系セロトニンを高めるための日常生活における工夫

 

SSRIによる治療の他にも、日常生活の中でセロトニンが高まるような工夫を行うことも効果的です。

 

セロトニンは、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンから作られます。

 

SSRIでパニック症状が治っても、トリプトファンが欠如した食事を続けると、パニック障害が再発することが分かっています。

 

トリプトファンを摂取して、セロトニンを高いレベルに保つことが、パニック障害の再発を防ぐために重要です。

 

トリプトファンが豊富に含まれている食品は、豆腐・納豆・味噌・醤油などの大豆製品、チーズ・牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、卵・バナナ・ゴマなどです。

 

トリプトファンは、トリプトファンヒドロキシラーゼという酵素の働きによって、5-HTP(5-ヒドロキシトリプトファン)という物質に変化します。

 

ビタミンDは、この酵素が十分に作られるように調節します。

 

また葉酸やビタミンB12からつくられるS-adenosyl-l-methionine(SAMe)もトリプトファンヒドロキシラーゼの働きに必要です。

 

次に5-HTPは、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素の働きによってセロトニンに変化します。この酵素の働きには、ビタミンB6が必須です。

 

ビタミンB6を多く含む食材は、サンマやサバなどの青魚、マグロ、サケ、レバー、卵、牛乳などです。ビタミンDは、魚やレバー、卵、チーズ、またキノコ類にも多く含まれています

 

セロトニンからは、2つの酵素の働きによってメラトニンが合成されます。メラトニンは睡眠ホルモンとも言われており、覚醒と睡眠を切り替えて、自然な眠りを誘う作用があります。

 

セロトニンやメラトニンの合成を促すサプリメントを用いる場合は、以下のような製品がすすめられます。

 

 

食事以外で、セロトニンを上げるために良い生活習慣として次のような活動が挙げられます。

 

 

SSRIを使っていても、セロトニンを作るための材料をしっかりと食事から取れていないと、効果も不十分です。たとえば炭水化物中心の食生活では、セロトニンの材料が十分ではない可能性があります。

 

トリプトファン、ビタミンB、ビタミンDなどを含む、魚や豆類、卵、乳製品などを定期的に摂取することが大切です。

 

生活習慣の中で改善できる部分があれば、ぜひ見直してみて下さい。