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ストレス反応
(PTSD、適応障害)の
治療方法

目次

ストレス反応とは

精神疾患の発症に、ストレスという心因が関与することはよく知られています。

 

例えば、東日本大震災のような大規模自然災害は、甚大なストレス体験となります。その直後からフラッシュバックや回避症状など、後述する精神症状が起これば、急性ストレス障害と診断されます。症状が1ヶ月以降も続く場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。

 

一方で、甚大ではないものの、単回のストレス体験や、持続的なストレスは、不安感や抑うつ気分を引き起こし、仕事に行くことが難しくなるなど、社会生活に支障をきたす場合があります。
不安症状やうつ症状が、重篤な精神疾患(パニック障害やうつ病)の診断基準を満たす程ではない場合は、適応障害と診断されます。

 

PTSDの症状と診断

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、日常的なストレスをはるかに超える外傷的な出来事(トラウマ体験)があり、その後、その出来事がフラッシュバック
したり、関係する事柄を回避したり、否定的な感情が強まったり、過覚醒などを伴う疾患です。

 

具体的な外傷体験として、自然災害では、地震、火災、洪水、台風、事故などが挙げられます。
また、他人からの故意による外傷行為として、性的暴力の被害、殴打等の暴力行為、車の事故などで重症を負う、非業の死を目撃する、死への脅威を体験するなどが挙げられます。

 

大規模自然災害の被災者におけるPTSDの有病率は、10%程度と言われています。
一方、性的暴力の被害者では、PTSDの頻度は4割近くに達するとの報告もあります。

 

ストレス体験の中でも、人生における大きなストレスの一つであるような出来事、例えば、予見できる家族や愛する人の喪失、離婚、解雇などは、PTSDの原因となる極度なストレス体験とはみなされません。

 

一方、幼少期のトラウマ体験は、PTSD(複雑性PTSD)発症の原因となることがあります。家族から身体的な虐待を受けたり、情緒的関わりを与えない精神的ネグレクトなど、長期間の反復的なトラウマ体験を受けることで、PTSDの症状に加えて、情緒的に安定した自己を確立できない場合(自己組織化の障害)、複雑性PTSDと診断されます。

 

PTSDには次のような臨床症状が
伴います

 

(1)昼間など、特に意識していない状況でも、自然と恐怖を伴う出来事のイメージが繰り返し鮮明に思い出され(侵入)、あたかも体験が繰り返されるような解離的反応(フラッシュバック)が起こります
(再体験)。

 

(2)外傷体験に関連する不快な記憶や恐怖感、それに伴う身体症状が起こらないように、出来事を思い出すような場所や人物を避けてしまいます
(持続的な回避)。

 

(3)他人を信用できないと感じ、将来への期待が持てなくなります。自分や他者を非難するような考えしか持てず、人生や人間関係を無意味なものと考えるようになります。恐怖・怒り・罪悪感が続き、社会参加が減少し、疎外感が強まります(認知や感情のネガティブな変化)。

 

(4)過覚醒状態になり、神経が過敏になります。イライラして怒りやすく、攻撃的な行動を取ったり、自己破壊的な行動につながる場合もあります。不眠などの睡眠障害や集中力の低下を伴います(覚醒度や反応性の変化)。

 

極度のストレスを体験すると、上記のような症状は誰もが体験します。これは正常な反応ですが、PTSDと診断される場合は、症状が重く、1ヶ月以上続いていること(持続性)や、著しい心理的苦痛によって社会活動に障害を伴っていること(機能障害)が
必要です。

 

複雑性PTSDの診断には、上記に加えて、自己組織化の障害(情動調節障害、対人関係障害、否定的自己概念)のいずれかの症状が伴うことが必要です。

PTSDの分類と経過

ストレス因子に暴露された後に症状が起こり、上記のような症状が1ヶ月以上続いた場合に、PTSDと診断されます。 発症のタイミングは、外傷体験の直後から症状を呈する場合もあれば、数週から数ヶ月の潜伏期間を経て、発症することもあります。外傷体験の直後にPTSDと同様の臨床症状を発症したものの、症状が1ヶ月以内に収まった場合は、「急性ストレス障害」と診断されます。

 

急性ストレス障害は、PTSDの早期の病態といえます。急性ストレス障害と診断された後、1ヶ月経過しても著しい症状が持続した場合、結果的にPTSDの診断基準を満たすことになります。

 

ストレス因子に暴露されてから、1〜3ヶ月の期間のみ症状が続いた場合は、「急性のPTSD」、3ヶ月以上にわたって症状が続いている場合は、「慢性のPTSD」、ストレス因子の暴露後、6ヶ月を超えてから発症した場合は、「発症遅延型のPTSD」と分類されます。

 

PTSDの経過は、原因となる外傷の種類によっても異なります。

 

例えば、性的暴力の被害を受けた場合、直後には9割以上の方がPTSDの診断基準を満たすものの、6ヶ月後には4割程度まで減少することが報告されています。
一方、性的暴力以外の調査では、直後には6割程度の方がPTSDの診断基準を満たすものの、6ヶ月後には、1割程度まで減少することが報告されています。

PTSDの心理療法

 

自律神経系は、通常、心と体の状態を活発にする交感神経系が優位の状態と、心と体を休ませる副交感神経系が優位の状態との間を行き来しています。

 

しかし、トラウマ体験によってバランスが乱れると、交感神経、あるいは副交感神経が過度に活性化した状態から抜け出せないようになってしまいます。

 

交感神経が過度に活性化すると、不安やパニック症状、イライラして落ち着きのなさ、怒り、過覚醒、
過敏
な状態になります。
一方、副交感神経が過度に活性化すると、うつ状態や無気力感、孤独感が強くなります。

 

自律神経のバランスが乱れている場合は、迷走神経を活性化して自律神経を整える方法が有効です。
迷走神経を活性化するには、次のような方法が用いられます。



 

PTSDに対する認知行動療法として、持続暴露療法が推奨されています。
無意識に回避している事柄に向かい合い、トラウマに対する想像での暴露や、現実での暴露を繰り返していくことで、トラウマの恐怖が、現実的には恐れる程のものではないことが学習されていきます。

PTSDの薬物療法

PTSDに対する薬物療法としては、次の表のような薬剤が用いられます。

種類 成分名 商品名
SSRI

パロキセチン

セルトラリン

パキシル

ジェイゾロフト

SNRI ベンラファキシン イフェクサー
非定型抗精神病薬

リスペリドン

アリピプラゾール

クエチアピン

リスパダール

エビリファイ

セロクエル

気分安定薬

ラモトリギン

バルプロ酸

ラミクタール

デパケン

交感神経遮断薬 プラゾシン ミニプレス

 

PTSDの薬物療法としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択となっています。米国では、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)とパロキセチン(商品名:パキシル)が適応を獲得しています。国内では、パロキセチンが適応を得ています。

 

SSRIは、不安感や恐怖感を和らげる作用が強く、不安から生じる震えや動悸などの身体症状にも効果があります。6〜12週間で効果を示し、服薬を継続することで、再発も抑えることが示されています。

 

パロキセチンは10mgから始めて、症状に応じて40mgまで増量することが出来ます。セルトラリンは25mgから始めて、症状に応じて100mgまで増量することが出来ます。

 

眠気や吐き気等の副作用でSSRIの服用が難しい場合は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるベンラファキシン(商品名:イフェクサー)も有効です。

 

非定型抗精神病薬は、単剤でも有効ですが、SSRIと組み合わせることで有効性が高くなります。妄想やフラッシュバックなどの精神症状が強い時に効果的です。悲しみや辛い感情を和らげて気持ちを落ち着かせる効果があります。

 

リスペリドンは0.5mgから始めて、症状に合わせて適量まで増量します。アリピプラゾールは3mg程度の少量で効果が期待できます。クエチアピンは、不眠症状を伴う場合に有効であり、12.5mgや25mgの少量から開始します。

 

SSRIや非定型抗精神病薬で効果が不十分な場合は、気分安定薬も考慮されます。
過去のトラウマ体験が常に頭の中に思い起こされて、ネガティブな考えが止まらないなどの症状が強い場合、ラミクタール(商品名:ラモトリギン)が有効です。25mgや50mgの少量で効果を認める場合があります。衝動性が強く、怒りの感情が大きい時は、バルプロ酸(商品名:デパケン)も有効です。

 

プラゾシン(商品名:ミニプレス)は、交感神経のα受容体を阻害します。交感神経が活性化して過緊張になっており、不眠や悪夢を伴い、悪夢によってトラウマ記憶が呼び起こされるような場合に有効です。
就寝前に1mgから開始し、2〜3mg程度までで効果が認められる場合が多いです。悪夢やフラッシュバックの頻度が下がることが期待されます。

適応障害

適応障害の症状と診断

 

仕事や家庭などでの対人関係の悩み、身体疾患(例えば、がんなど)に関する健康上の問題、経済的な問題など、日常生活におけるストレスへの反応として、 不安感や抑うつ症状などの精神症状が強く、仕事や家事などの活動に支障が生じている状態です。

 

はっきりとしたストレス因子が見当たらない場合や、ストレス要因が存在するとしても、ストレスにうまく対応できており、心理的苦痛や機能障害を伴っていない場合は、適応障害と診断されません。

 

情動面での症状はさまざまですが、抑うつ症状は、うつ病の診断基準を満たすほど重くなく、不安症状は、パニック障害など不安障害の診断基準を満たすほど重度ではありません。



 

行動面では、仕事ができないなど、社会的役割を果たすことができないことや、家事ができないなど家庭的役割の遂行が困難となります。

 

通常、ストレス因子への暴露から3ヶ月以内に情動面や行動面での症状が出現します。頻度は高くないものの、ストレスとなる出来事から6ヶ月以上経って症状が発症する、遅延発症型もあります。

 

経過に関しては、適応障害は、ストレス因子の消失によって自然に軽快することが多い病態です。原因となっているストレス要因が解消された場合には、症状は6ヶ月以内に回復するとされています。

 

症状が6ヶ月未満で消退した場合には、「急性の適応障害」と診断されます。

 

しかし、ストレスの原因として困難な仕事や、結婚生活、経済上のトラブルなど、ストレス要因が慢性的に続く場合があります。そのような場合は、症状が長引くことも多く、症状が6ヶ月以上続く場合は「慢性の適応障害」と診断されます。

 

長期的な経過観察では、大部分の方がはっきりとした精神症状は認めない状態に回復します。数年間にわたって症状が続く慢性的な経過をたどる場合や、
うつ病に進展するケースは、10〜15%程度と言われています。

適応障害の薬物療法

 

適応障害の治療では、ストレス要因の理解を深めて、具体的なストレスとなる要因を除去することが大切です。そして、ストレスに対するコーピング(対処)技術を養うことが、病状の緩和と適応レベルの回復につながります。

 

薬物療法は、臨床症状に応じて用いられます。不安症状に対しては、抗不安薬やSSRIが有効です。抑うつ症状に対しては、SSRIやSNRI等の抗うつ薬を用いた治療が有効です。

症状に応じて下記のリンクをご参照下さい。

不安症状に対する抗不安薬を用いた治療 不安症状に対するSSRIを用いた治療 抑うつ症状に対する抗うつ薬を用いた治療